呼吸の重要性
成人が1回の呼吸で吸い込む空気の量は、おおよそ500mLと言われています。1分間の呼吸数を12~20回とすると、一日では約28,000回、量にして14,400Lもの空気を取り込んでいることになります。
そもそも、なぜ呼吸はそれほど重要なのでしょうか?
それは、私たちが生きていくために必要なエネルギーは、食べ物だけでは作ることができないからです。食事から得られた栄養分を分解し、エネルギーに変換する過程で酸素が必要になります。また、その際に発生した二酸化炭素を体外へ排出するのも呼吸の役割です。
このように、呼吸は生命活動に必要なエネルギーを生み出す、極めて重要な役割を担っています。
呼吸に異常があると、体内の酸素が不足したり二酸化炭素が蓄積したりして、体のさまざまな機能に支障をきたす恐れがあります。
在宅酸素療法とは?
在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy: HOT(ホット))は、主に慢性呼吸不全の患者さんが、自宅で「酸素濃縮装置」などの医療機器を用いて酸素を吸入する治療法です。
酸素濃縮装置は、室内の空気から酸素のみを取り出し、効率よく体内に届ける仕組みの医療機器です。生成された酸素は、鼻カニューラを通じて吸入します。装置は、自宅に設置して使用する据え置き型のほか、外出や移動時に持ち運んで使用する携帯型の酸素濃縮装置や酸素ボンベがあり、活動範囲や症状に応じて使い分けることが可能です。
在宅酸素療法は健康保険の適用対象となっており、治療を開始するにあたっては、医療機関での適切な検査と診断が必要になります。医師の診断後、医療機関を通じて医療機器が貸し出されます。機器の使用方法などは、医師の指示に基づき、在宅酸素業者が患者さんとご家族へ詳しく説明します。また、定期的な受診が必要になり、毎月の診療費(社会保険の負担割合に応じた自己負担分)を医療機関に支払います。
在宅酸素療法の健康保険の適用基準
在宅酸素療法には健康保険が適用されています。
適用条件は以下の通りです。
- 高度慢性呼吸不全例:動脈血酸素分圧 55mmHg 以下の者及び動脈血酸素分圧 60mmHg 以下で睡眠時又は運動負荷時に著しい低酸素血症を来す者であって、医師が在宅酸素療法を必要であると認めたもの。
- 肺高血圧症
- 慢性心不全:NYHAⅢ度以上であると認められ、睡眠時 のチェーンストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸数及び低 呼吸数をいう。)が 20 以上であることが睡眠ポリグラフィー上確認されている症例。
- 群発頭痛:群発期間中の患者であって、1日平均1回以上の頭痛発作を認めるもの。
- チアノーゼ型先天性心疾患
在宅酸素療法の暮らし
在宅酸素療法を開始するにあたっての注意事項の詳細は、かかりつけ医にご確認ください。
火気の取り扱いに注意する
酸素は、物の燃焼を助ける性質を持つガスです。
そのため、厚生労働省も、酸素濃縮装置などを使用している際には、装置の周囲2m以内に火気を置かないよう注意喚起を行っています。
特に、酸素吸入中の喫煙は厳禁です。
風邪予防をする
細菌やウイルスへの感染は、症状を急激に悪化させる要因になるため、日頃の予防が重要です。
- 外出先から帰った際や、食事の前には手洗いとうがいを行う。
- 外出時はマスクを着用し、なるべく人混みを避ける。
- 予防接種を受ける。
- 部屋の温度を20℃前後に保ち、湿度を50~60%に維持する。
便秘に気をつける
便秘によって排便時に力む際、体には安静時の3~4倍もの酸素が必要になります。
日ごろから水分補給やバランスの良い食事、適度な運動を心がけましょう。
また、トイレに行く際にも、忘れずに酸素を吸入することで息苦しさが軽減されます。
栄養をしっかりとる
慢性呼吸不全の方は、呼吸をすること自体に、健康な方よりも多くのエネルギーを消費します。
その一方で、息苦しさによって食欲が落ちてしまうことも少なくありません。
これらの要因が重なると、体重の減少から体力が低下し、さらなる呼吸機能の低下を招くという悪循環に陥る恐れがあります。
一度に多く食べれない場合には、食事回数を数回に分ける、少量でも高栄養のものを選ぶなどの工夫を取り入れてみましょう。
旅行の準備
旅行を計画される際には、まずは主治医へご相談ください。
在宅酸素業者によっては、宿泊先への酸素濃縮装置の設置や、携帯用の酸素ボンベの手配などをサポートしている場合があります。
また、公共交通機関を利用して酸素ボンベを使用する際には、事前の確認や申請が必要です。
余裕をもって早めに準備を進めることで、安心して快適な旅行を楽しむことができるでしょう。
災害に備える
万が一の災害時に備えて、日ごろから準備をしておくことが大切です。
在宅酸素業者へ避難所の情報を共有しておくと、災害時の安否確認や避難所へのボンベの配送がスムーズに行われます。
災害が発生したら:
- まずは落ち着いて自身の安全を最優先に確保する。
- 火の始末をし、家具の倒壊に注意しながら、窓やドアを開けて避難経路を確保する。
- 停電が起こった場合には、速やかに酸素ボンベに切り替える。
避難が必要になった場合に備える:
- 在宅酸素業者へ避難先の情報を共有しておく。
- 非常持ち出し袋とマスクや予備のカニューラ等を入れた非常備蓄品を備えておく。
- 防災手帳を用意しておく。疾患名、処方されている薬や酸素などの情報を記載しておく。
- 避難所(場所、経路、連絡先)の確認を行う。
停電に備える:
- 枕元や酸素濃縮装置の周辺に懐中電灯を準備しておく。
- 家族や身近な人に酸素ボンベの使い方や残量に伴う稼働時間を知っておいてもらう。
- 常に予備の酸素ボンベを備蓄しておく。